エンジニアの中途採用で意識していたこと・学んだこと

以前、エンジニアの中途採用をしていた際に意識していたことを書き残しておきます*1

当時はうまく整理ができなかった(自分が面接をした/された人がいつか見るかもしれない、など考えると)のですが、今ならできそうと思ったので残しておきます。あくまで個人の主観であり、ノウハウというよりポエムであることをご理解いただければと思います。

前提

当時はエンジニア関連職における中途採用の知見や実績があまりなかったので、募集要項を作り直すところから始めています。媒体やエージェント、選考フローは人事の方が諸々検討してくださった*2ので、僕は募集要項を人事に連携し、採用目標人数を決め、書類選考と面接を担当していました。なので書けるのはその範囲です。

意識していたこと

相手に興味を持つ

僕が面接を行う際には、必ず相手のストーリーを共有していただくところから始めていました。いきなり何言ってんだって感じですが、要は職務経歴書をもとにこれまでの人生について話してもらうところから始めていました。面接というと転職理由や現職の状況、今後のキャリア観などを伺うことは多いと思いますが、それらは全てこれまでの人生とその延長線上にあるはずなので、過去を遡り、今に至るストーリーを理解することから始めるようにしていました*3
事前に得た職務経歴書などの情報に本人の言葉を付け加えてもらうことで理解を深め、過去から現在までを質問を通じて深堀りしていく中で、これまで何を大事にしてきたのか、そして転職を考えたきっかけや現職の状況を把握するようにしていました。
この進め方をしていた理由について、1つは単純にそのほうが相手が話しやすいだろうと思っていたことがあります。もう1つの理由は、ストーリーで聞くとより相手に興味を抱きやすいからです。 ストーリーとして聞くと、一つ一つの行動や意思決定を線として理解できるので、「なぜ?」という疑問を抱きやすかったり、相手も話したい/話しやすい部分は自然とたくさん話してくれるので、情報量が少なくて質問が出てこないことや、聞いて良いのかわからなくて聞けない、ということが減ったように思います*4。 一応、面接における質問のテンプレートはあらかじめ用意するのですが、聞き忘れを防止する程度の役割でした。

なおストーリーを聞く際には、相手のこれまでの経験に応じて重きの置き方を変える必要があります。 例えば新卒2 ~ 3年目であれば、大学生の頃や就職活動の時期、場合によってはもっと過去から話します。一方で社会人歴が長いとそんなに過去のことは覚えていません。こういう場に慣れていることもあり、あまりにテンプレートから外れた質問を続けると時間の無駄だと思われてしまうリスクもあります。
また海外の方はキャリアに対する考え方が日本人とまったく異なるケースもあり、僕の質問で混乱させてしまうこともありました。そのため、興味を持ちつつもあくまで話す内容は相手に合わせる必要はあったと思います。

相手の良いところを引き出す

面接ってややもすると減点方式、粗探しみたいな思考になることがある*5のですが、実際に働く際に大切なのは良いところを引き出せるかどうかだと、組織を運営する中で気づきました。そのため、相手が過去どんなときに力を発揮したのかを必ず聞くようにしていました。しかもそれは成果を出していたかどうかという客観ではなく、当人の主観を聞いていました。そして自分・あるいは自分の組織が同じかそれ以上に引き出せるかどうかを1つの基準にしていました。この質問に合わせてどんなときに力を発揮できなかったのかを聞き、それが自分や組織のせいで起きないかを考えていました。力を発揮できなかった時、は答えにくい質問ですが、人のパフォーマンスやモチベーションは環境にも左右されるし波があって当然という前提を伝えると、比較的話していただけたように思います。

そして「自分ならこの人の力を引き出してWin-Winになれる」と思った場合には採用プロセスをハックすることも検討します。人によって合う合わないがあるのは当然のことで、それがあるから複数回の面接や面談を通じてお互いのことをよく知るのが大切だとは勿論わかっています。しかし、おそらく深く関わることはないだろうな、という人に合わないと判断されては困ります。なので誰を面談・面接に当てるのか、どういう情報を流すのかは考えるようにしていました。これは自身にも当てはまり、自分が変に合わないと判断するのも勿体ないのであえて面接を引き受けない、面接してみて自分が判断するのが危険と感じたらもう一度別の人にお願いする、とかも必要かなと思います。

自身も面接を受ける

他社の面接のノウハウを知り、そして候補者が面接内でどのようなことを感じるのかを体感するためです*6。 ただ面接を多くこなすだけでは良い結果につながるとは思えなかったので、自身も他社の面接を受けていました。面接を受ける中で、良いと思ったこととやらないほうが良いと感じたことをストックし、面接をする際に活かしていました。 具体例を1つあげると、僕は面接が始まった際に必ず「お会いできるのを楽しみにしていました」と言うようにしていました。これは実際に僕が言われて嬉しかったことをそのまま真似ています。真似るようになってからは、この言葉を言えるくらい興味を持つために事前に候補者のことをよく調べるようにもなりました。 また他社の方法を知ることで、既成の選考プロセスにとらわれず、柔軟に手段を検討できるようになったと思います。

学んだこと

採用だけが正解ではない

採用をしているのは人を集めてやりたいことがあるからですが、人を集める方法は採用だけではありません。業務委託・フリーランスといった契約形態の幅や、学生インターンという手段もあります。日本市場で難しければオフショアベンターも一案です。雇用の形態によって参画後に活躍できる時期も変わってきます。以下の記事のマルチエンジニア・マルチ開発という箇所にもありますが、各手段のトレードオフを認識しつつ、うまく利用することが必要です。

qiita.com

なによりオプションを持っておくことの重要性は高く、組織づくりという中長期で不確実性の高い取り組みの中でどれか1つに手段を絞るのはリスクが高いです。うまくいかないときに焦って採用基準や入社後のフォローが雑になり早期退職リスクを向上させる恐れや、組織を拡大できないことが徐々に事業の首を締めていく危険性すらあります*7

変わるべくは自分であるということ

エンジニア採用の成果がいまいち出ていないと感じていたときに、fukabori.fm の以下の回を聞いて脳天を撃ち抜かれました。

fukabori.fm

この回はエムスリーの山崎さんがエムスリーのエンジニア組織のはじまりから現在の組織へと拡大していく歴史を語る回です。その中で「オファー承諾率は100%を目指す」という考え方に衝撃を受けました。

僕は当時、エンジニア採用を改善するためにプロセスごとの通過率を出していました。そこでわかったことは、実は一般的な割合と比較すると数字が悪くないことでした。改善点はいくつか挙げられましたが、客観的に数字を眺めると「別に悪くはないんじゃない?」という意見もありました。
一方で「ぜひ一緒に働きたい!」と思った人に振られるのはやはりつらいものです。もちろんオファーした中には承諾いただけた方もいるので、駄目なところばかりに目を向けても仕方ありません。それでも、なぜ選んでもらえなかったのかというモヤモヤは拭えないまま、そういうものか、結局は数打つしかないのかと自身を納得させていました。

そんな中、このPodcastで「自分たちがオファーを出しているような人には100%来てほしい」「承諾率を100%に近づけるためには、自分たちに原因があると考え、自分たちが変わらなければならない」という内容を聞いて、霧が晴れるように思考がクリアになったのを思い出します。

相手が魅力的だから自分たちはオファーを出しているわけで、そんな人には100%来てもらいたい。その人が辞退するということは、それは自分たちの組織に問題があるということ。もしかしたら自らの組織や事業が大切だと思っているものを犠牲にしてでも、変わらなければならないのかもしれない。一緒に働きたいと思う人材を探すプロセスの中で、いつの間にか自分たちの価値観や状況が基準になっている。そうではなく、魅力的な人に求められるように自らの組織が変わる必要があるということに気がつきました。

この考え方はしばらくマイブームとなり、採用に限らず色々な場面で意識するようになりました。

事業のための人であり、人のための事業である

上記2つの学びをまとめると、要するにこういうことなのかな、と思います。 やりたいことがあるから人を集めるというのは、事業のための人という考え方です。一方で魅力的な人のために自らが変わるというのは、人のための事業という考え方です。どちらも正しく、相反するものではありません。理想論だと言えばそれまでですが、面接ないし人と向き合う際の前提として大切にしたいスタンスだなと思いました。

締め

採用がゴールではない、面接はお互いの情報交換の場でもある、とか他にも思いついたことはありますが、このあたりはよく言われていそうなので割愛しました。採用活動はかなりの労力を必要とします。企業のイメージを形作るものでもあるので、手を抜くわけにもいきません*8。僕は様々な方のストーリーや価値観を合法的に(?)知ることができ、そして学ぶことも多かったので楽しめていました。1年前のことを書いているのですが、ここまですらすら書けたことに驚いてもいます。

おまけですが、自身が採用する側の立場になった経験は、いざ自分が転職する際にも非常に役に立ちます。それは面接ハックみたいな話ではなく、上記で書いたことは面接する側とされる側の立場を入れ替えても結構当てはまると思うからです。相手の企業/人に興味を持つ。自分も面接をする側になることで採用する側の気持ちを知る。なぜ相手が採用しているのか、そこに至るストーリーを理解する。そもそも転職/採用だけが正解ではない。そして魅力的な企業/人と一緒に働きたければ、時に自身が変わる必要がある、ということです。

*1:厳密にはエンジニア、PjM, PdM, EMの採用に関与していました。また、今は携わっておりません

*2:さらっと書いていますが「求めよ、さらば与えられん」というくらい尽力してくださいました

*3:新卒の面接だと幼少期から聞くことはよくありますが、近いことを中途の面接でもやっていました

*4:このやり方の欠点は面接の時間をコントロールしにくいことで、時間をオーバーすることもありました

*5:相手だって、わざわざ自分の悪いところを言わないですからね

*6:ノウハウを知るために面接を受けるな、と言われそうですが、実際に転職することも考えていましたし、結果的に転職したので許してください

*7:こう書いているのは、僕が考えていた理想や囚われ(例えば内製化率はこれくらいの数字を維持したい、とか)のせいで首を絞めてしまったのではないか、という懸念が今でもあるからです

*8:こんなこと偉そうに言えるほどやってはいないのですが…